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なぜクロスボウは規制されないのか?危険なボウガンを規制できない理由とは

最近、クロスボウにて家族を殺害するという目を疑うような事件が日本にて起こりました
(何故かメディアはボウガンという表記を使いたがりますが、正確にはボウガンは商標なのでで正しくはクロスボウです。まあ商標登録の更新をしていないみたいなので今はどっちでもいいみたいですが、基本的にはクロスボウと言うのが一般的です)

今ではFPSゲームなどでも知名度を上げたクロスボウですが、一般の方からすればクロスボウなど知らないのが当然であり、今回の事件にてこんな危険なものがなぜ規制されていないのか?という声が非常に多く見受けられます

まあ確かにクロスボウは物にもよりますがとてつもない威力を持ち、一般の方からすれば危険=日本では違法。みたいな認識でしょうから、こんなものが普通に変えてしまうのがおかしいと思うのも普通の考えでしょう

しかし、クロスボウが規制されないのには色々な理由があるのです




弓道、アーチェリーとの境界線が曖昧


クロスボウは板バネなどの反発力を用いて、弦を使い矢を飛ばす武器です

エアソフトガンのように圧縮空気を用いたり、銃火器のように火薬をエネルギー源としていません。そのため、銃刀法に当てはめることがそもそも不可能なのです。

そのため所持自体が規制されることはなく、自由に売り買いができるというわけです。ただし当然正当な理由なく持ち歩けば軽犯罪法にて取り締まられますので、危険度で言うなら包丁などと大して変わらないでしょう


クロスボウを規制できない理由として、よく挙げられることに弓道やアーチェリーとの兼ね合いがあります。

クロスボウも和弓も洋弓も、弦と弓を使い矢を飛ばすという点は変わりません。そのためクロスボウを規制するのであれば、和弓や洋弓といった「弓矢」というカテゴリー全てを規制せざるを得なくなってしまうのです

アーチェリーはオリンピック競技ですし、弓道も伝統的な武芸です。一度事件が起こったからと言って、変に業界を萎縮させるのは国も気が進まないでしょう。




クロスボウは構造が単純ゆえ定義が曖昧すぎる


しかし、クロスボウと弓矢は全然見た目も仕組みも違うんだから、クロスボウのみを規制すればいいんじゃないのか、と言いたい人も居るでしょう。

しかし、クロスボウはその単純な仕組みゆえ、拳銃のように簡単に規制することが出来ないのです

例えば、クロスボウと弓矢の明確な違いとして、トリガーがあります。弓矢が弦を引っ張って離すのに対し、クロスボウはトリガーを引くことにより矢を発射します

しかし。アーチェリーにはリリーサーと呼ばれる、トリガーのような器具が存在するのです。

クロスボウのトリガーとこれは別だろと言いたい人も居るでしょうが、トリガーというものが何か?という話であればこれらは同じという扱いになってしまう可能性が濃厚なのです。

違いを明確に出来なければ、クロスボウのみを規制するということはできません。さすれば結局は弓道やアーチェリー業界に痛手を与えることとなってしまいます。
そうすれば馬鹿を見るのは真面目に練習している人達であり、結局は誰も得しない法律になってしまうのです。


ならば銃床(ストック)のあるものをクロスボウと定義すれば弓矢と差別化できるのでは?と考えている人もいます
確かに弓矢に銃床はありません。これならば差別化はできるでしょう

……が、しかし。クロスボウには銃床のないものも沢山存在します。
というわけで銃床のあるクロスボウを規制したとして、銃床の無いクロスボウが出回るようになるだけである事は想像に難くありません。 そうなれば損をするのは銃床のあるクロスボウを所有している善良な人と、それを商品として抱えている業者のみ。結局は根本的な解決にはならず、嫌な思いをする人間を産むだけです


ならば、弦を本体に固定するものをクロスボウとすれば良いのでは?となります。
確かにこれならアーチェリーのリリーサーなどの問題も回避することができますし、明らかに和弓や洋弓とも差別化できるでしょう。

ここまで読んだ人は、最初から難癖つけずこれでいいじゃないか、と思ったかもしれません。しかし、それでもやはり問題があるのです。

それはクロスボウの定義です

まず、クロスボウとはなんでしょうか?

とりあえずは、板バネや木などの弓を主なパワー源としたものをクロスボウとします

f:id:ONSEN:20200608214032j:plain 板バネにかけた弦を引き、板バネが元に戻ろうとする力を利用して矢を飛ばす。これは間違いなくクロスボウです



じゃあこれはどうでしょう? f:id:ONSEN:20200608214105j:plain 黄色いものは動力源のゴムです。一見クロスボウと同じように見えますが、パワー源は100%ゴムです。
しかし、一般的にはこれもクロスボウと認識されるでしょうね

じゃあこれは? f:id:ONSEN:20200608213958j:plain 動力源は完全にゴムであり、見た目もほぼクロスボウでは無くなりました。しかしパワー源は上記のものと何ら変わりません
しかもこれも矢を放つことが出来ます。というわけでこれもクロスボウです

そしてここで問題となってくるのがスリングライフルというものです。
具体的には上の三つ目の図のものが、仕組みとしてはスリングライフルに当たります


中華スリングショットライフル  Chinese Sling Shot Rifle

板バネなどを用いていませんし、パワー元は100%ゴム。しかし弦を固定し、トリガーで放つというこの仕組みは、明らかに上のクロスボウの定義において無視することはできません

そもそもスリングライフルは名前の通りパチンコ玉を弾丸とするものですが、仕組み上矢だって普通に飛ばせます。ならばこれも規制の対象となっても何らおかしくはないでしょう。そもそもクロスボウでは無いのに、です

このように、クロスボウという曖昧なものを規制しようとすれば、関係の無いスリングライフルが巻き添えを食らうのです。

すると、スリングライフル業界からこのような意見が出てきます。

「そもそも硬球を飛ばすためのスリングライフルを規制の対象にするのはおかしいのではないか」

「動力源がゴムのスリングライフルを規制するのに、動力源がクロスボウと同じ弓矢を規制から外すのはおかしいのではないか」

……というわけで結果として、クロスボウ、スリングライフル、和弓、アーチェリー等……全てを規制せざるを得なくなるというわけです




このようにクロスボウの規制には色んなハードルがある


ここまで読んでいる貴方はもうお気づきかもしれませんが、このように仕組みが銃火器のように明確でないクロスボウを規制するのにはいろいろな部分を吟味しなければならないのです。

これがもし火薬や圧縮空気など共通のものを動力源としていたりすれば、簡単に規制することが出来たでしょう。
しかし、クロスボウの動力源はあくまでも弓矢であり、トリガーや本体は取って付けたものでしかありません。なので弓矢との差別化がとても難しいのです。




唯一他に被害を出さず規制できるとすれば、それはポンド数の制限


そもそもクロスボウは、手では引けないような強力な弓をトリガーにて保持するという部分が強力な武器たる所以です

例えばクロスボウではオーソドックスな150ポンドですが、こんな張力の弓矢などまずこの世に存在しません。


滑車の力を利用したコンパウンドボウですら40〜80ポンドほどです


強弓で鎧は貫通できる!? 弓力50キロと27キロの弓で鉄板の貫通力実験 Samurai pierces an 1.6mm iron plate with bow on trial

この動画の最後に張力が89キロもの3人張りの弓が登場しますが、ポンド換算で196ポンドですよ?クロスボウならコッキングマシーンを使わなければまず引ききることすらできない重さ。こんなものまともに扱える人間など存在しません。
それに50kgの弓すら完全には引けていませんから、実際の弓道やアーチェリーではやはり使用する弓は100ポンド以下に収まるでしょう

因みに50kgはポンド換算で110ポンド。クロスボウの中ではかなり弱い方になりますが、弓矢であれば強すぎるくらいの張力です。

ここまで書けばもう分かると思いますが、クロスボウは張力が弓矢と比較してあまりにも桁外れです。なので弓矢もまとめて規制したとしても、それが100ポンド以上を規制、のようなものであれば和弓やアーチェリーに与える影響は全くないというわけです

またクロスボウに関しても、競技用のクロスボウは95ポンドが規制値となっているため、この規制には引っかからないと思われます






ポンド数で規制したとして、国内に出回っているクロスボウに関してはどう扱うのかが大きな課題


ポンド数にて実質的なクロスボウの規制が出来たとしても、そこからも更に問題が生じます




クロスボウを輸入し販売する業者は不良在庫を大量に抱えることとなる


クロスボウは海外から輸入されたものが、日本でも多く出回っています。そのため、武器ショップや通販ショップは多くの在庫を抱えていることでしょう。
クロスボウが規制されてしまえば、在庫を捌くことが出来なくなってしまいます。店としては大損です。
その損害に関してはどこが責任を取るのでしょう?

そもそも元は規制がなかったものです。それを在庫として抱えていただけ。なのに今日から違法ハイ全部捨てて、なんてのはこの令和の時代に絶対に通用しないでしょう




単純所持が規制されるなら、国が取り上げることになる


店の在庫以外にも、クロスボウは既に日本にて多くが出回っています。なので今更規制したら、それらの回収などはどう行うのか?という問題があります。

クロスボウは高いものなら10万円以上します。そんなものを国に無条件で取り上げられるとしたら、持っていることを隠してしまう人も多いでしょう。その結果、後々になって違法所持で逮捕される人が増えるような気がしてなりません

罪でなかった事が罪になるというのはとても大きな問題なのです




買い取るにしても、自作クロスボウは値段が付かない


またクロスボウは仕組みが単純ゆえ、自作のクロスボウも数多く存在します。そのため、国が全て買い取るというのも無理な話なのです

自作クロスボウを国が買い取る場合、値段はどう付けるのでしょう?そもそも自作のクロスボウなんかには値段はありません。

材料費で買い取るとしても、レシートなどは当然残っていないでしょう。それに製造にかかった手間や時間などはどう考慮するのか?という問題が残ります。
所持している人が満足できるような基準を作らなければ、これまた一般製品のクロスボウのように隠して所持してしまう人が増えるでしょう。

さらに言えばクロスボウは簡単に作れます。そのため買い取るという声明を出した途端に、金目当てにガラククロスボウを制作するずる賢い輩も現れると思われます

自作のクロスボウなんて廃棄するように言えばいいんじゃないか、と思う人もいるかも知れませんが、それで実際廃棄してくれる人がどれくらいいるか……急に国が自分の私物を「捨てろ」って言ってくるんですよ?

恐らくは廃棄せずに隠し持つ人が多いでしょう。これまた違法所持で逮捕される人を増やしてしまいます

このように、規制したはいいがその後どうする?という大きな問題が残っているのです




単純所持を規制するのではなく、輸入を禁じるのであればこの問題は解決する


上のように単純所持の規制、などではなく、業者または個人への「100ポンドを超える弓矢類の輸入の制限」であるとすれば、現在国内にて出回っているクロスボウに関しては無視することが出来ます

日本国内にてクロスボウを作っている業者はありませんから、今後は国内にて100ポンドを超えるクロスボウは非売品となります。しかし、これなら今現在所有している人への制限はありません。当然自作クロスボウに関してもノータッチです。

問題はこれではクロスボウの輸入は禁止したものの、製造は禁止していないため、自作クロスボウヤフオクなどで販売する個人が現れても何らおかしくはない点でしょうか




規制ではなく、今後はクロスボウの販売にも登録証を付けるようにするのも案としてはアリ


日本刀には、銃砲刀剣類登録証というものがあります

銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)により定義されている刀剣類――刃渡り15cm以上の刀、槍、および薙刀、刃渡り5.5cm以上の剣、あいくち――および、美術品もしくは骨董品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲については、所持および売買にあたって、各都道府県の教育委員会により登録された登録証が必要となります。登録証が無いまま所持を続けたり売買を行う事は処罰の対象となりますので、速やかに所轄の警察署(派出所ではありません)の生活安全課へ、現物と印鑑と身分証明書を持っておいでください。

銃砲刀剣類登録証の登録手順|日本刀・刀剣買取専門店 刀剣佐藤

銃砲刀剣類登録証の取得方法と、各都道府県教育委員会の連絡先について。もしご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。無料宅配キットのお申込みは フリーダイヤル 0120-963-411。


このようなものを今後クロスボウの販売、所持に義務付ければ、少しは危険性が下がるでしょう
まあ問題としては例のごとく、登録証を持たずに所有する人が違法所持でしょっぴかれてしまうという点ですが。




個人的には規制はされて欲しくない。あくまでも問題なのは、道具を凶器にする狂人


そもそもクロスボウとかの武器を買う人って、ガンマニアと似たようなもんだと思うんですけどね

例えばマック堺さんとか海外にわざわざ出向いて、世界の色んな実銃を本当に楽しそうに撃っています。
でも、この人が実銃で人を殺したいとかそういう危険なことを考えているか?というとそうでは無いでしょう

あくまでも撃つ事自体を楽しんでいるわけで、別に人に向けて撃ちたいとかそういうのでは無いはずです

クロスボウだって似たようなもんだと思います。競技用以外のハンティングクロスボウをわざわざ購入するような人は、クロスボウで的撃ってアドレナリンが出る感覚と、それ自体の無骨な美しさや機能美によるコレクション性を好んでいるだけで、別に人間を打ちたいとか微塵も思っていないでしょう

ぶっちゃけて言うなら日本刀を所有している人と大して変わらんのです。日本刀を馬鹿にするなと言う声も聞こえそうですが、見た目の美しさ、武器としての危うさなどを魅力としているのはどちらも同じですし、いざとなれば危険な凶器になりうる点もソックリです
違うのは日本刀は剣であるために実際に使うと価値が下がる恐れがあるため、実際に居合とかする人が居ないってところですが


私としては武器というカテゴリーがそこまで嫌いじゃありませんから、正直なところ規制には反対ですね。
YouTubeニコニコ動画などには自作のスリングライフルとかクロスボウの動画か沢山上がっていますが、個人が良くぞここまで作るものだ、と感心するような動画も多いです。そういう動画を見るのを楽しんでいる私からすると、規制されてしまうと非常につまらないんですよね

何をくだらないと思う方も居るかもしれませんが、私からすれば何でもかんでも規制すりゃいいって考えの方がくだらないと思います
クロスボウは既に持ち歩けば軽犯罪法にて取り締まられます。それで十分なのではないでしょうか。

今回のケースを見るに、別にクロスボウがなければ包丁でやってたでしょう。包丁が無ければ素手でやってたと思います。

人間誰しも相手を殺したいと思うほど憎んだことがあると思います。そこで理性で踏み止まることが出来るのが人間です。

しかし理性で踏みとどまれなかった者は、それを行動に移してしまう。
その際に使う道具なんてなんでも良くて、今回はたまたまクロスボウだった。そういうレベルのことです。
もしクロスボウがなければ鉄パイプや包丁でやっていたでしょう。殺意を持った人間からすればなんだって武器になります。

包丁は持ち歩けば銃刀法違反ですが、包丁による殺人は後を経ちませんよね。対して規制も何も無いクロスボウにおける殺人事件って、今までどれくらいの数起こったのでしょう?

屁理屈かも知れませんが、殺意のない人間にポンとクロスボウを渡しても誰も殺さないように、クロスボウそのものに罪はありません。そして殺意のある人間に渡せば、例え石ころでも立派な凶器になるでしょう。
本当に人を殺すような人間はクロスボウなどわざわざ用意せず、相手の家にガソリンを撒いて火をつけるくらいのことは余裕で行うでしょうに

問題はクロスボウではなく、もっと別の部分にあると思いますよ